白衣姿の男性……見間違える事はない。智ちゃんだ。

最初に医務室で会った時はお互い怪我してたんだよね。今でも覚えてる。迷宮から帰ってきた時。それまで医療室でお世話になる事は少なかったから、もっとクールな感じの人だと思ってたんだけど、実際は優しくて、けど悪戯好き。そして、自分の事は自分の責任として、更に生徒の事までも引き受けることができる強い人。悪ふざけ好き問題児の僕の冗談にも真正面から相手してくれた。だから、信頼できた。
智ちゃんと過ごした時間は凄くリラックスできたし、どこか抱えているものが僕と似ている気がして、気を許して色々相談することもできた。僕の抱えている傷や悩みにも気付いていたはずなのに、それを抉るような事は決してしなかったし、それを克服させようと下手な教師のように説教する事なんてなかった。ただ、それでも僕が助けを求めた時には何時も側に居て、手を差し伸べてくれた。多分、仲の良い家族ってのがいたらあんな感じなんだろうな。お父さん……は流石に失礼だな。歳の離れた兄さんがいたら、あんな感じだったのかも。おかげで、僕は前に進む事ができた。
それでも、今の僕達より先にいて、力も強いからといって、それが即ち万能だという事にはならない。会う度に怪我をしていた気がするけど、男として、そして教師として、智ちゃんは自分の弱さを他人に見せる事ができなかったのかもしれない。何時かは、僕がそれを支えてあげる事ができれば良かったんだけど。せめて、愚痴を聞いたりするぐらいは。
でも、あんな智ちゃんだから人気はあるもんだし、いつかはきっと、お似合いの相手がその横にはいることなんだろうね。姉さんが嫁に行くってこんな気分なのかなあ。
やっぱり、僕にとっては先生なんて言葉で言い表せないぐらい、大切でかけがえのない人だった。ありがとう。
・
・
・
……嫌、だ……忘れたく、ないの……に――